Food Connectionでは、世界のアスリートをめぐる食のトレンド「アスリートのエネルギー不足の現状と各国の取り組みについて」と題したセミナーを6月8日(土)に開催、管理栄養士や公認スポーツ栄養士、スポーツ栄養に興味のある方など、約50名の方に参加いただきました。(共催:USAライス連合会)
このセミナーでは、イギリス、アラブ首長国連邦、アメリカで活躍する3名の栄養士がパネラーとして登場し、それぞれの国でのアスリートのエネルギー不足に繋がる食の課題や多様性にどのように対処すべきか、食文化の違いを踏まえての事例や対応策とあわせ、食の最新情報やカルフォルニア米「カルローズ」を使ったレシピもご紹介頂きました。
トップバッターとして登場された、月岡美由紀氏(管理栄養士/ IOCのディプロマ取得、現在リバプール・ジョンムーア大学スポーツ栄養修士コースにて大学院に留学中)の講演「アスリートの『利用可能エネルギーの概念』と海外の動向」では、利用可能エネルギー:Energy Availability(EA)のコンセプトとして、”運動によって消費されたエネルギーを考慮した後、身体システムの最適な機能のために残された、またそれに利用できる食事性エネルギーのことである“という定義を基に、EAは、①エネルギー摂取量が変わらなくて運動量が多くなった時 ➁運動量は同じでも食欲不振等でエネルギー摂取量が減ってしまった時 ③ ①と➁の両方が重なった時に起こること、そしてLow Energy Availability(LEA)には健康やパフォーマンスにとって大きな問題となり、長期的な悪影響になるようなものまであることや、REDs(スポーツにおける相対的エネルギー不足)のモデルの中では、LEAによって更に多くの健康障害の可能性が取り上げられていることなどを説明いただきました。このような健康障害の背景には、ホルモンの変化によって脳が省エネモードにシフトしていることが考えられ、その結果、安静時代謝が落ちることが確認されていることを説明、対応策として現場レベルではアセスメントが出来るように質問票が開発されていることなどをご紹介頂きました。
また、炭水化物摂取の最適化が、低エネルギー状態の改善やパフォーマンスアップのカギになるかもしれないとしたうえで、アスリートが抱える炭水化物摂取による体形への影響の誤解や、体重またはボディイメージへの影響について恐怖心がある可能性を示唆し、スポーツ栄養士としてどのようにサポートしていくかが重要であることを示されました。
続いて2番目の講師として登場された根本裕理氏(Tuned Sports & Performance Nutrition FZE代表/英国AfN登録栄養士)は、「アスリートとラマダン 断食中のムスリムへの食の対応」と題したテーマで講演頂きました。この中では、日本人にとってあまり馴染みのないラマダンというものの概要や、イスラム教徒にとっての位置付け、そして期間中の食事の摂り方などをご説明頂き、ラマダンの流れに合わせてアスリートはどのような生活を送っているのかを具体的にご紹介いただきました。アスリートのトレーニングの時間帯として ①断食が明ける前 ➁メインの食事が終わった後 ③断食に入る前 の3パターンが基本的にあり、競技種目や練習内容、そして選手に合わせてどのタイミングでどのようなトレーニングを行っているのかを決めていく、とのこと。そしてカタールスターズリーグ(サッカー)を例に、ラマダン月のトレーニングと食事が、通常時と比較してどのように変わるのかを示し、試合時間が深夜に及ぶこと、それに伴い練習時間も遅くなり、結果として睡眠時間の確保が課題となる事などを挙げられました
その様な状況のためアスリートが抱える課題も多くあり、時間がないことから体重減となる場合や、筋力が落ち脂肪が増えること、外食が多いためコントロールが上手くいかず太ること、喉の渇きが気になり集中できないことや睡眠時間が確保できないことなど、悩みごとが多い時でもあるとのことでした。そして、アスリートをサポートするうえで重要と感じる10項目を掲げられ、栄養面のサポートだけでなく、文化的、宗教的な背景もきちんと把握し理解したうえで、的確なアドバイスが行えることが非常に重要である、と締めくくり、会場にいた参加者は大きくうなずく様子が伺えました。
最後に登場されたヌワニー・ジャヤラット氏(米国登録栄養士(RD) 米国オリンピック・パラリンピック委員会シニア栄養士)は、「アメリカにおけるアスリートのエネルギー不足と食のトレンド」というテーマでお話頂きました。このなかでは体重階級系のスポーツの特徴である体重管理とパフォーマンスというものが、エネルギー不足の問題とその対応策に常に隣り合わせていること、トップアスリートたちはパフォーマンスを向上させて結果を出すことをトッププライオリティとしており、健康とパフォーマンスの両方を共に可能なものとし、最大限の力を発揮できるようにサポートすることが、スポーツ栄養士にとって一番大切な事であると思うと語られました。また、減量期の食事と栄養の安全な対応策としては、減量最終期(計量前から1週間前後の期間)に、最終的に体重を下げる割合が5-8%に抑えると安全に減量が出来、軽量後のしっかりした栄養管理で競技力に対する悪影響を回避、又は最小限に抑えることができると説明されました。
そのようななかでのスポーツ栄養士の課題としては、エビデンスを選手が理解できるようにかみ砕いて説明することや、体重コントロールと競技力向上のサポートを行い、パフォーマンスの最適化を実現することであるが、そのうえで「DO NO HARM(害を及ぼさない)」、健康に危害を与えかねないと考えられる場合は、そのことを伝える責任もスポーツ栄養士にはあると思うと語られました。
今回ご登場頂いた3名の講師の方々のお話は、どれもスポーツ現場の最前線で活躍されている栄養士の経験に基づいた内容であり、まだまだお聞きしたいことが溢れているようなお話でしたが、参加者の皆様はご提案頂いたカルローズを使ったメニューを召し上がりながら、エネルギー不足への対応についての理解を一層深めたように伺えました。